平成29年~令和2年にかけて民法の大改正がありました。
改正の中に、遺言や相続に関する相続法も含まれます。昭和55年以降から相続法は約40年のもの間、変わることはありませんでした。
近年、相続に関連するトラブルが増えており、改正前の相続法では対応できないことも多く今回の改正に至ったのです。
相続は、生きている人なら1度は経験することですよね。
にもかかわらず、相続に関する知識がない人は多くいます。ましてや、相続に関する改正ならなおさらでしょう。
それでも、相続が開始されたときに対処すれば大丈夫でしょ?なんて思っていると、痛い目にあって大変になってしまいますよ。
例えば、義親の介護をした相続人の配偶者も財産を請求できることを知ってますか。
以前の民法では、そのような配偶者は財産を請求することはできませんでした。
しかし今回の改正により請求できるようになったのです。
もし、この知識がなければ相続人だけで遺産分割され、相続人の配偶者は何も得られないまま相続手続きが終わっていたことになります。
このように、相続法の改正を知らないと痛い目にあってしまいます。ですので、今回は、相続法の改正についてポイントを解説します。
相続法の改正で変わった7つの権利を紹介
今回の相続法の改正された権利は7つです。
分かりやすいように以下でまとめておきます。
以上が改正された点になります。それでは、以下で詳しく解説します。
改正1:他の相続財産も取得できる配偶者居住権
改正1の配偶者居住権は、配偶者を保護するために創設された権利です。
この権利が創設されたことで、建物について「配偶者居住権」と「負担付き所有権」に分けられ、柔軟な遺産分割ができることになり配偶者の老後生活を安定させることができるようになりました。
例えば、相続財産が現金2,000万円と居住用不動産1,500万円、配偶者と息子1人の計2人が相続人になり、配偶者が居住不動産に住み続ける場合の事例で考えます。
改正前の法定相続手続きでは、「配偶者が居住不動産1,500万円と現金250万円」「息子が現金1,750万円」となり、配偶者への現金が少なくその後の生活に影響が出てしまう問題ありました。
しかし、配偶者居住の権利が創設されたことで、「配偶者が配偶者居住権分750万円と現金1,000万円」と「息子が負担付き所有権分750万円と現金1,000万円」なります。
配偶者居住権は、配偶者が自宅(居住不動産)に住み続け、現金などの他の財産も多く相続できるので生活を安定させることが可能になる権利です。
改正2:配偶者保護を図った配偶者短期居住権
改正2の配偶者短期居住権も、配偶者を保護した権利です。
この権利は、相続開始時に配偶者が自宅(居住不動産)住んでいた場合、遺産分割が終わるまでの間、住み続けられる権利です。
改正3:遺産分割前に一定の財産を払い戻せる制度
改正点3も配偶者を保護したものになります。
被相続人が亡くなった場合、被相続人名義の預貯金が凍結され遺産分割が終わるまでは一時的に払い戻しができなくなります。
その間、葬儀費用や生活費などの支払いが必要になったとしても、払い戻しができない問題がありました。
その問題を解決するため、改正後は遺産分割前でもあっても一定の金額について金融機関の手続きを得て払い戻し可能になったのです。
改正4:財産目録をパソコンで代用可能になった自筆遺言書の緩和
4つ目の改正は自筆証書遺言の緩和です。
自筆証書遺言は、財産目録などの添付する書類含めすべて自書しなければいけませんでした。
意外にも、これらを自書するのは書き損じなど遺言者には負担になってしまっていたのです。
その負担を減らすため、改正後は財産目録についてパソコンで作成した物や通帳の写しなどで代用が可能になりました。
ただし、遺言書だけは現在も自書で書く必要があるので注意が必要です。
改正5:紛失、改ざん防止のための法務局が行っている遺言保管制度
改正点5は、自筆証書遺言の保管制度です。
自筆証書遺言で作成された遺言書は、今まで紛失や改ざんのおそれが問題になるケースがありました。
その問題を解決するために、遺言者本人が一定の手続きをすることで法務局が保管してくれるサービスを開始しました。
改正6:相続人でない親族保護の特別寄与分の請求権
改正点6は、特別寄与分の請求です。
冒頭で挙げた相続人でない親族が、義親(被相続人)の介護や看病をするケース(寄与分)はよくあります。
以前なら、そのような相続人でない親族は財産を引き継ぐ権利はなく不公平であると指摘がありました。
今回の改正により、相続人でない親族であっても被相続人の介護や財産の維持などに貢献した場合は、相続人に特別の寄与分として請求できる権利が創設されました。
改正7:お金で返還する遺留分制度の見直し
最後の改正点は遺留分(遺留分減殺請求)の制度見直しです。
以前は、遺留分を侵害された相続人が、返還を求める請求した場合、現物で返還するのが原則でした。
しかし、改正後、現金債権として遺留分の割合をお金で請求できることになったのです。
以下で、遺留分(遺留分侵害額請求権)について詳しい記事を載せておきます。
相続法改正で相続税の基礎控除は変わらず
以上で、7つの改正点を紹介しました。
今回の改正で、相続法が40年ぶりの大幅に変わったのが分かりました。
そして、相続税に掛かる基礎控除も一緒に変わってたのか気になる人も多いはずです。

上記のように基礎控除額3000万円×相続人の人数(1人600万円)が総控除額です。
このように基礎控除額は変わっていませんので安心してください。
改正前の相続は原則、改正前の相続法が適用される
改正前に遺言書作成し改正後の相続手続きが発生した場合、どっちが優先させるのか悩むと思います。
法律上、改正前に作成した遺言書や相続手続きは改正前の相続法が適用されます。
しかし、例外的に改正前であっても、改正後の相続法を適用することがあります。
例えば、相続人ではない親族の寄与分の権利などがこれにあたります。
原則は、改正前に発生したものは改正前の相続法が適用されますが、例外的に改正前でも改正後の相続法を適用されることがあるので注意が必要です。
まとめ
以上で今回の相続法改正の解説は終わりです。
改正した点を知っておくことで安心して相続手続きが進められることでしょう。
ただ、相続法のすべてが変わったわけでありません。例えば、相続税の基礎控除や法定相続分などは変わっていません。
相続手続きの進め方が分からない人は、一度専門家などに相談することをお勧めします。
当事務所は相続手続きの専門家です。お気軽にお問い合わせください。
【執筆者】
茨城県常総市で行政書士として活動
行政書士 石塚昌克(いしつか まさかつ)
